憩室炎で入院してたけど何か質問ある?

大腸憩室炎という病状で入院した39歳サラリーマンの備忘録的日記のようなもの。(現在進行形)

いこいのへや、って書いて『憩室』だよ♥

病院ではとにかく多くの時間を待ちながら過ごす。

病院で働いている側からすれば時間の隙間なく慌ただしく動いているのだろう。

だがひとりの患者からすれば接点はほんの数分だ。

 

柴咲コウ似の女医さんの触診は流れるように終わり、CT検査を行うことになった。

診察室から離れ、今はCT室の前で時が来るのを待っている。 

しばらくして名前を呼ばれてCT室に入る。部屋に入ると若い男性技師から名前を聞かれた。患者を取り違えないためのルール。私が私であることを証明することは、自ら名乗ることだけである。

名前を名乗ると据え置きのパジャマを渡され、機械の上に横になるように案内された。

部屋の陰でいそいそとスーツを脱ぎ、パジャマに着替える。会社から持って出てきたビジネスバックも近くのカゴに入れておく。

タイムトラベルでもさせてくれそうな仰々しいCTスキャンの機材。中央に置かれたベッド的なものの上に横になると、男性技師が撮影の準備をはじめる。下腹部のあたりに重たいシートを掛けられる。鉛版だろうか。ちゃんと守ってね。

 

準備を終えると技師は奥の部屋に入り、撮影開始の案内をする。

 

見知らぬ、天井。

 

部屋全体が唸りをあげて響く。

 

何かの映画で見たワンシーン。

病院内での銃撃戦。こんな感じの機械が作動してみんなの銃を強力な磁力で吸い寄せる。

あの映画って何だったかな。ジョン・トラボルタがいたような。フェイス・オフ?

てかあれはCTスキャンじゃなくてMRIってやつだったっけ。

フェイス・オフ……ジョン・ウー……2丁拳銃……鳩……白いハトがバサバサー。

 

そんなことを思っていたらあっという間に撮影は終了。

元のスーツに着替えたら書類を渡されて元の診療科の窓口へ。ピタゴラスイッチ

 

診療科の窓口に戻り、再度柴咲コウ似の女医さんがいる診察室へ。

 

開口一番、柴咲コウ様が強めの口調で。

「健康診断してません?!」

ちょっと表情が険しい。何か怒られた気分。

「あ、はぁ、1ヶ月くらい前ですけど。え?」

バリウムが写ってますね」

え?一か月前の?

ていうか、うんこって一か月も腸にいるの?バリウムだから?

確かにバリウムって白いし。

健康診断のこと言ってなかったけどまずかった?

いやでもその時はちゃんと下剤を飲んで、バリウムは排泄されたはず。

ほら、本当に1ヶ月も前のことですので、すっかり忘れておりましたし。

胆嚢とか、関係ないの?肝臓も?

えーと、もしかして、怒ってる?

「……憩室炎ですね。」

女医は別に怒ってない。淡々と続ける。

 

憩室とは、粘膜の一部が臓器の圧力の上昇などによって袋のように突出したもの。

大腸にある憩室は「大腸憩室」と呼ばれる。

要は、大腸の中にモノが溜まりやすい「スキマ」ができているような状態らしい。

この憩室は決まった部位をさしているわけではなく、腸内のあらゆる所にできるようで、人によって発生する数や大きさが異なる。若いころに憩室を持つ人は少ないが、高齢になると憩室が増えていく。

そして憩室炎とは、この憩室の中に便がつまったりして炎症を引き起こした状態。この憩室炎の症状になると、発熱、腹痛、下血などをきたすことになる。

ちなみに、憩室は大腸のいろいろな箇所に発生する可能性があるが、もともと日本人は大腸の右側に憩室が発生しやすく、欧米人は大腸の左側に憩室が発生しやすい傾向があるそうだ。それはもともと食生活の違いが大きな理由だったようだが、最近は食生活が欧米化しているため、日本人でも大腸左側の憩室の発生が増えているらしい。

 

憩室が起こる理由は様々だが、腸内の圧力によるものが理由の一つと言われている。

腸内の圧力が上がることで、腸の壁の弱い部分が外側に向けて徐々に膨らんで行き、憩室を作り上げる。食生活や日常生活のストレス、うんこするときに力む時だって腸内の圧力は上がる。

 

私は腹部の左側、大腸の中の下行結腸と呼ばれる場所にこの憩室炎が発生している。

 

柴咲コウ女史は「いこいのへや、って書いて『憩室』だよ♥」と教えてくれた。

(だよ♥、は私の妄想だったかもしれない)

憩室。字面は良いが、ここで憩いの時間を過ごしているのは細菌どもである。

ゆるせん。

 

ビジネスバッグから普段仕事に使っているメモ帳を取り出す。

「えーとすみません、病名なんでしたっけ?もう一度。」

「憩室炎です。いこいのへや。いこいって漢字ちょっと難しいけど、舌って書いて――」

「あ、大丈夫っす。」

適当に空白のあるページを開き、ひらがなで大きく『けいしつえん』と殴り書きした。これでオーケー。

 

診察室の机の上に置かれた縦長のモニターには、先ほど撮影したCTスキャンの映像が表示されている。素人の目にも確かに、左わき腹側の腸が大きく腫れているように見えた。

そして、その腸の壁際に、白い影が大きく2つ。

そうか、バリウムってこうやってレントゲンに写るのか。そりゃあ女史もすぐ気づくわ。

ていうかこんな時間にこんなとこにいちゃ駄目だろキミ。マジで1ヶ月も腹の中に残ったままだったのか。

そして、朝に出た白い奴はこいつの仲間だったのか。

 

女史が説明を続ける。

治療について。

 

憩室炎は主に細菌が原因で起こるため、治療は抗生剤の投与で行う。

――抗生剤、風邪の時とかにも飲んだりするあれだよね。菌を殺すやつ。はいはい。

 

また、食事は炎症を悪化させるため原則控える。

――まあ、腸がやられてるなら仕方ないか。晩御飯は消化にいいやつ食べないとね。

 

順調に炎症が引けば、一週間くらいで回復する。

――一週間は暴飲暴食できないってことかな。残念だな。

 

「というのを、入院して経過を見ていくかたちになります。」

 

え、入院!?今から?

 

つづく 

keishitsuen.hatenablog.com