憩室炎で入院してたけど何か質問ある?

大腸憩室炎という病状で入院した39歳サラリーマンの備忘録的日記のようなもの。(現在進行形)

すみません、こぼしちゃいました♥

「入院が必要なんですか?」

――そう。

 

「期間はどれくらい?」

――早くて一週間。

 

「通院では治せないの?」

――治せなくはない。食事を控えて薬で治る人もいる。

ただ食事をすると大抵炎症は広がるので、そのまま悪化することもある。

消化に悪いものは食べちゃだめ。お酒は確実に悪化させるので絶対ダメ。

長引く可能性があるので入院を勧める。

 

「入院ってどんな感じ?」

――ご飯が食べれないので、点滴をつないで抗生剤を投与する。

炎症が引けば普通に行動できるようになるので、入院中に回復の経過を見ていく。

退院できるのは完全に炎症が引いてから。

 

「つ、通院では治せないの?」

――そういう人もいる。入院よりは長引くかもしれない。

 

「にゅ、入院って……どんな……」

 

どうしよう、お昼休みに仕事を抜け出し、診察が終わったら会社に戻ろうと思っていたが、逆にこのまま戻るのも不安すぎる。

かといってこの場での判断も難しい。

「今日は薬を出してもらって、後日また状況を見てもらうこともできますか?」

「まあ、できなくはないですが……そうしますか?」

じゃあ抗生剤を処方する準備するので、と柴咲コウ似の女医さんがカチャカチャと書類を作り始める。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。家族に電話してきていいですか。」

決まったら受付に声をかけてください、と女史。私は診察室を出て、廊下を抜けて病院の外へと出た。

 

スマホを取り出してカミさんに電話をかける。

急な話だけど入院することになった。

憩室炎というらしい。

入院期間は一週間くらい。

今日から帰れない。

今から入院の手続をする。

「わかった。着替えとか準備できたらそっちに行くね。」

 

会社にも電話をかけた。

すみません。突然ですが入院になりました。

退院。よくわからないけど一週間くらいかかるみたいです。

すみません。

「わかった。ゆっくり休んで。」

 

家で治療をする、という選択肢ももちろんあったのだが、食事を抑えた状態で生活バランスを崩さずにいることにちょっと自信がなかったのと、どんどん強くなっていくお腹の痛みを感じながら、このまま中途半端な対処をして病状が長引いてしまうことが心配だった。

できるなら短期間に集中して治療したいと思い、結局、相談というより入院が決まった前提で話を進めてしまった。

この時は家族も会社も理解があったことが非常にありがたい。

 

それぞれの電話を終えて病院の中に戻る。ちなみにこのとき、病院の建物に戻ったこの瞬間から10日間、私はこの病院の中から出られなくなる。よーいスタート。

 

診察科の受付に戻ると入院に必要な書類を渡された。

書類に記入。

入院受付の窓口へ行き、書類を渡して手続き。

またレントゲン撮影。

 

しばらくして病室へと案内される。

病室は4階にあった。「4」は好きじゃない。

エレベータを降りて廊下を右に進むとすぐにナースステーションがあった。

廊下の左右に病室、手前のほうは2人部屋になっているようだ。

奥へ進んでトイレを過ぎたあたりは4人部屋。私が入った6人部屋はさらに先、病棟の一番奥の左手の部屋だった。

6人部屋の中は左右に3つずつ、ベッドが配置されるスペースが区切られていた。配置されたベッドは全部で5つ。入って左手の真ん中のスペースにはベッドが置かれておらず、代わりに車いすと点滴のスタンドが置かれていた。

左手奥にある窓際のベッドに案内され、しばらくここで待つように言われる。

スーツを着たままベッドの上で待つ。

場違いな感じ。

 

しばらくして担当の看護師さんがきた。よろしくおねがいします、と笑顔。

優香に似てる。と思ったけどマスクしてるからよくわかんない。

マスクの下は優香と勝手に妄想。

スーツ姿の私。突然の入院などで当然着替えは持ち合わせていない。レンタルのパジャマを貸してくれた。

まずは着替てください、と看護師さん。

カーテンを引いていそいそとパジャマに着替える私。

準備完了。

じゃあ、施設のご案内をしますのでついてきてください、と看護師さん。

はい、と立ち上がろうとするが、靴は仕事で履いてきた革靴しかない。

「あの、これ、靴。」

「あ、大丈夫です!」

白衣の天使、満面の笑顔。

いやいやいや、大丈夫じゃない。パジャマに裸足で革靴ですよ。

白衣の天使、満面の笑顔。

……しかたない、革靴をガポガポいわせながらついていく。

ぐるっとフロアを見て回る。テキパキ説明する看護師さん。ここがシャワー、あれが洗面台、ここはトイレ、あそこが面会室、これは冷蔵庫。

絶食なので冷蔵庫は使わないんじゃないかな。

 

病室に戻りしばらくすると、看護師さんがトレイを持ってやってきた。点滴の準備をするらしい。

看護師さんがいそいそと道具をセットしていく。そして針を取り出し、

「ちょっとチクっとしますねっ。」

 

ぶすり。 

 

憩室炎の治療は基本的に痛みが引くまで絶食となる。その間、栄養がなければ当然よけいに体調を悪くするので、食事をしない代わりに必要なエネルギーを点滴で補うそうだ。

そのため、点滴の針を刺しっぱなしにして24時間点滴を受け続ける状態が数日間続く。

この刺しっぱなしになる針は留置針(りゅうちしん)と呼ばれるもので、金属ではなく樹脂でできていてやわらかい。ちなみに刺すときには金属の針と一緒に差し込まれて、金属の針だけが抜き取られるような作りになっている。

この留置針を左腕の手首付近に刺し、留置針と15センチメートルくらいの短いチューブをつないでテープで腕に固定しておく。このチューブの先端はコネクタになっており、点滴側のチューブと接続ができるようになっている。

その後、点滴をスタンドにぶら下げ、伸びたチューブを左手のチューブと繋ぎ、点滴を滴下していく。

ぽたぽたと落ちる点滴。

うん、手際が良い。

と思ったら看護師さんがなぜかベッドの上をタオルでごしごし擦っている。

「ん、どうしました?」

「すみません、こぼしちゃいました♥」

 

え、何を……ってうわぁぁぁ!

起き上がってみるとベッドの上にでっかい血のシミ。なんじゃこりゃぁあ!

白衣の天使、無邪気な笑顔。

 

つづく